棹の材について
三線の価格は棹材の価値で決定される。棹となる原木が高価なものは、その価格が三線の価格に跳ね返る。その結果、高い三線となる。 よく、三線の音は何で決まるのか?とご質問を受ける。 もちろん音が鳴るのは胴(チーガ)であるが、胴で最初に作られた「音」は、棹を振動させ、その余韻や響きを空気に伝え、人間の耳に伝える。つまり、棹が振動しないことには「良い音」として伝わらない。棹がしっかりしたモノで無い限り、良い音が出ないのである。
では、良い棹材とは何か? 現在では八重山の黒木(くるち=沖縄地方の方言)、つまり黒檀であるが、その黒檀の中でも真黒と呼ばれる、真っ黒な黒檀だ。 元来、「リュウキュウコクタン」と呼ばれる沖縄本島の黒木が最も高価な棹であり、その次が八重山の黒木という順になっていた。しかし、今では本島の黒木は採れなくなっている。したがって八重山の黒木が最も高価なものとされている。
原木を荒削りし、仕上げを待つ棹
この他に棹の材として使用されるものにフィリピン産やタイ産など南方産黒木と呼ばれる材もある。アフリカの黒木もある。また、これ以外に縞模様の入った縞黒檀と呼ばれる材もある。他には、紫檀、ゆし木、カリン、桑の木など「硬い木」が使われる。
黒檀(黒木)と呼ばれる木材は、材の密度が最も高く硬い木であり且つしなりがある。密度が高く硬くしなるということは、胴で作られた音を最大限に響かせることができる。 余談であるが黒檀とは「松の木」や「柿の木」などという特定の木の名称では無い。かなりいい加減な話をすると、硬くて黒くて重い(密度が高い)木の総称だ。主にカキノキ科の木材となっている。
さて、黒木が最も良い棹になることはすでに述べた。では、黒木以外の材で作られた三線は良くないのだろうか? 答えはノーだ。
皆様は開鐘(けーじょー)と呼ばれる三線をご存知だろうか? 開鐘三線とは、琉球王朝時代、琉球国王がお抱えの三線打(職人)に製作させ、御茶屋御殿にて夜が明けるまで聴き比べて選び抜かれた幻の名器であると言われている。 一説には、国王がうたた寝をしている時、家来の一人が弾いた三線の音が、鐘の音と間違えるほど美しい響きを奏でたとも言われている。
「ゆし木・実入り」の棹(大変稀少な材です)
いずれにしても三線の名器を指して開鐘と呼ぶのだが、有名なものに名器中の名器と呼ばれる盛嶋開鐘(むりしまけーじょー)がある。ほかに、西平開鐘(にしんだけーじょー)、翁長開鐘(おーながけーじょ)、志多伯開鐘(したはくけいじょう)、湧川開鐘(わくがわけいじょう)、富盛開鐘(とむいけいじょう)などが知られている.
●盛嶋開鐘(むりしまけーじょー) ●西平開鐘(にしんだけーじょー) ●翁長開鐘(おーながけーじょ) ●志多伯開鐘(したはくけーじょー) ●湧川開鐘(わくがーけーじょー) ●富盛開鐘(とむいけーじょー)
この中の富盛開鐘については、黒木の棹が使われていない。なんと「ゆし木」の棹が使用されているのだ。 察するに、王朝時代の三線打(職人)たちは、三線を作るために棹の材に囚われていた訳では無いようで、例えば硬く響く音を作りたいのであれば硬い黒木を使用し、柔らかい音を作りたければ、ゆし木を選択し「音作り」に対して臨機応変に対応していたようなのだ。 という事は、三線の音を決定するものは、棹の材だけではなく、胴とのバランスなど三線打の経験などによるところが大きいと思われる。
詰まっていない八重山黒木を使用するくらいなら、詰まっている南方産の縞黒檀(カマゴン)を使用する方がよほどきれいな音を奏でることができる。場合によっては「ゆし木」で音を整えた方が良い場合も有る。いずれも胴と棹とのコンビネーションで良い音作りは決定される。 されど、三線には黒檀=黒木(くるち)信仰がつきものであることも事実である。 それでは、ここで棹のランクを整理しておこう。このランクは、あくまで棹の原木として高価な順位であるということであり、決して良い音を奏でる事を保障する順位ではない。
また以下の価格は、巷で販売されている三線の標準的な価格を参考程度に記載しているだけで和於屋三線での販売価格とは異なる。
八重山黒木 30万円~数百万円程度
南方産黒木(カミゲン) 10万円~50万円程度
縞黒檀(カマゴン) 7万円~20万円程度
紫檀 6万円~15万円程度
ゆし木 5万円~25万円程度
三線の棹は、いずれも木の密度が高く撓り(しなり)が有り、胴で作られる音を最大限に伝えられる材を使用する。胴で作られた音と、棹が伝える音で倍音が発生し、人の耳に聞こえる時には、あのように優しく美しい響きとなる。それでは上述した棹の材についてもう少し詳しく説明してみようと思う。
現代の三線づくりにおいて、黒木(黒檀=くるち)が最高であることは言うまでもないが、原木の種類以外に大事な要素がある。それは、棹となる原木をどれほど自然乾燥させているのか?言いかえればどれだけ寝せているのか?と言う事だ。
良い棹となる材は、少なくとも5年以上自然乾燥させたものを使用する。 これは、伐採したばかりの材であると、まだまだ収縮を繰り返すからなのだ。自然乾燥をさせている内に、木の収縮幅が狭くなり木材は締りを出すようになる。木は伐採してからも生き続ける。伐採してから乾燥させる期間=寝かせる期間が長ければ長いほど、材質は締まって密になり、良く響く棹となり、反りや捻りが入りにくくなる。
和於屋三線では、「入魂の三線シリーズ」の中でも比較的リーズナブルな価格として販売している縞黒檀(カマゴン)や紫檀の原木でさえ、最低でも5年間は寝かせたものを使用している。 良く寝て格段に質が向上した原木は、良い腕の棹職人の手で命を吹き込まれ、三線の棹として目覚める。
「棹の材で選ぶ」 / 「『入魂の三線』とは?」
|